ど》っている。
「あなたはこんなものを写して何にするんです」
ある晩彼はわたしの古碑の鈔本《しょうほん》をめくって見て、研究的の質問を発した。
「何にするんでもない」
「そんならこれを写すのはどういう考《かんがえ》ですな」
「どういう考もない」
「あなたは少し文章を作ってみる気になりませんか」
わたしは彼の心持がよくわかった。彼等はちょうど「新青年」を経営していたのだが、その時賛成してくれる人もなければ、反対してくれる人もないらしい。思うに彼等は寂寞を感じているのかもしれない。
「たとえば一間の鉄部屋があって、どこにも窓がなく、どうしても壊すことが出来ないで、内に大勢熟睡しているとすると、久しからずして皆悶死するだろうが、彼等は昏睡から死滅に入って死の悲哀を感じない。現在君が大声あげて喚び起すと、目の覚めかかった幾人は驚き立つであろうが、この不幸なる少数者は救い戻しようのない臨終の苦しみを受けるのである。君はそれでも彼等を起し得たと思うのか」
と、わたしはただこう言ってみた。すると彼は
「そうして幾人は已に起き上った。君が著手《ちゃくしゅ》しなければ、この鉄部屋の希望を壊したとい
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