ンが笑いながら云った。
フランボーは鹿爪《しかつめ》らしい顔をもたげた。そして黒い眼をこの友人の上にジッと据《す》えた。
「それがまた妙なんでしてね、蝋燭は二十五本もありながら燭台は影も形も見えんです」
急に室内は暗くなって来た、風は急に吹荒《ふきすさ》んで来た。ブラウンは卓子《テーブル》に添うて蝋燭の束が他のゴミゴミした蒐集品の中に転がっているところへ来た。がふとその時彼は赤茶色の芥《あくた》の山のようなものを見出《みいだ》して、その上にのしかかってみた。と思うまに激しいくさめの音が沈黙をやぶった。
「ヤッ! これはこれは嗅煙草《かぎたばこ》じャ!」とブラウンが云った。
彼は一本の蝋燭を取上げて叮嚀《ていねい》に火を点け、元の席に帰って、それをウイスキー瓶の口にさした。気の狂ったようにバタバタとはためく窓を犯して吹込む騒々しい夜気《よき》が長い炎をユラユラと流れ旗のように揺めかした。そしてこの城の四方に、何|哩《マイル》となくひろがる黒い松林が孤巌《こがん》を取巻く黒い海のようにごうごうと吠えているのを彼等はきいた。
「では目録を読上げてみましょう」とクレーヴン探偵は鹿爪らしい
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