まわりながら不機嫌そうに煙草をすった。
「皆の衆」とフランボーがわざと勿体らしく云った。「諸君俺に注意するがよい、俺が昔は犯罪家だった事を忘れぬがよい。あの時分は実に面白かった。俺は自分でズンズン話の筋道を組立ててズンズン想いのままに実行したもんだ。その俺だ、こんなのらくらした探偵事件は仏蘭西《フランス》ッ児《こ》の俺に堪え得る事ではない。俺はオギャアといって、この世に生れて以来、善悪ともに片端《かたっぱし》から手ッ取り早くかたづけたものだ。決闘の約束をするにしても翌《あく》る朝は必ずチャンバラやったもんだ」
「勘定書はいつでも即金でガチャガチャと支払ったもんだ。歯医者へ行くんだって約束日を延ばしたりなんかはせん」
 と突然師父ブラウンのパイプが口からすり落ちて花崗岩《みかげいし》の廊下の上で三つに割れた。彼は阿呆の様に眼球をクルクル廻転させた。
「オー神よ、何として私は大根だったろう」
 こう叫びながら彼は泥酔漢《でいすいかん》が故なく笑う様にワハワハと笑い出した。
「歯医者歯医者」彼はフランボーの言葉を繰返した。「アアわしは六時間も精神的に奈落の底に沈みおった。これと云うのも皆今の
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