顔をして一枚の紙を取上げた。「もっとも目録とは云いながら、実物はすべて城中のあちこちに変な風にチラバッておったものを一所《ひとところ》へ集めたものではあるですが。師父さんも城内の装飾が大部分引はがされたり、もぎ取られたりした歴々たる形跡のあるのを既に御覧の事とは思いますが、ここにただ一部屋か二部屋、何者かが住んでおったものと見えて、――それがあの下男のゴーでないことは確かです――粗末ではあるがしかし小綺麗に整頓した室《へや》があるのです。では読上げましょう――
 第一項 おびたゞしい宝石《はうせき》の山。九分九厘まではダイヤモンド。しかも皆貴金属より抜取られあるものにして金属は見えず。もちろんこのオージルビー家とて家族者《かぞくしや》の身に帯びし宝石は無数にありたるならんも、今ここに記す宝石類は皆極めて一般の場合特別なる装飾品に象眼《ざうがん》さるゝ種類の品ならざるはなし、オージルビーの家族はそれ等の宝石類を抜取りて、あたかも銅貨の如く常にポケット内に弄びしものにはあらざるか。
 第二項 剥出しなる嗅煙草のおびたゞしき山。煙草入《たばこいれ》にも入れてなく、嚢《ふくろ》にも入れてなくして、暖炉《ストーブ》枠の上、食器棚の上、ピアノの上|等《とう》至る所に一塊《ひとかたまり》づゝにして載せてある。その様あたかも老伯がポケット内にこれをさぐり、あるひは容器の蓋を開くの懶《ものう》きに絶えずとしてしかせしならんが如く見ゆ。
 第三項 屋内のここかしこに不思議なる金属の細片の小さき山。あるものはぜんまいの如く、あるものは精微なる歯車の形せり。これ等皆あたかも機械仕掛の玩具中より取外せしものゝ如し。
 第四項 蝋燭二十五本。しかも燭台らしきもの一もなきを以てこれ等は空瓶の口にでも差して使用せざるべからず。
「さて、師父さん、あなたにお願いしておきたいのは奇々妙々なる事実が我々の予想以上じゃという点に御注目下さらんことです。[#「。」は底本では欠落]もっとも謎の中心問題に関しては我々にも意見はあります、すなわち我々は一見して故伯爵には何か故障のようなものがあったんだなということをすぐに覚《さと》りました。吾々は、彼がここに生きているかどうか、またここに死んでいるかどうか、彼を埋葬したというあの赤毛の異形《いぎょう》な男が彼の死去と何等かの関係があるかどうかを知ろうとしてここへ参
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