ある。彼の夢は、彼が研究した所の強いがしかしかた苦しい古代の美術にありそうな、絵画にある大胆なそして大きな図案のようであった。それ等は菱形や三角の後先のついた奇妙な聖者、ずっと前につき出てる黄色の冠そして丸い暗い平たい顔をして鷲の模様や、女のように髪を結んだ顎髯のある男の高い頭飾り等で一っぱいであった。幾度となくそれ等のビザンテン模様は火の上に置かれて色のあせる金のようにあわくなって行った。そして暗いあらわな岩壁の外には何にも残らなかった。その上にはピカピカ光る形ちが指で魚の燐光の中に掏《すく》い上げたように描かれてあった。なぜならそれは彼が最初に彼の敵の声を暗い道の角で聞いた瞬間に、彼が一度見上げそして見た標徴であったから。
「そしてとうとう」と彼が言った。「私はその絵と声の中にある意味を見たと思います。それは前にどうしてもわからなかったものでしたが、なぜ私は多くの正気な人々の中のただ一人の狂人が私を死まで迫害したりまたはつけねらったりするのを自慢にするために苦しむのでしょうか? 暗い塋穴[#「塋穴」は底本では「埜穴」]の中にキリストの神秘な表徴を画《えが》いた人は非常にちがった状態
前へ 次へ
全53ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェスタートン ギルバート・キース の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング