ていた。二本の丈夫な棒でそれを高く支えて、上部の石の平板《ひらいた》の端にひき上げて、それから死骸の頭の後の棺の角々に差入られた。それで足と体の下の方はよく見られなかった。けれども蝋燭の光りは顔一っぱいに照らした、そして海牙色[#「海牙色」に傍点]の死人の色合に対照して黄金の十字架は動きそしてまた火のようにきらきらするように見えた。
牧師が呪いの物語りをして以来、スメール教授の大きな額は反省の深い皺がきざまれた。しかし敏感な女性の直感は彼の周囲の人々より以上彼の苦悩してる不動の意味を了解した。その蝋燭の光に照された洞穴の沈黙の中にダイアナ夫人は不意に叫び声をあげた。
「それにさわってはいけないと、いうのに!」
しかしその男は死体の上にかがんで、獅子の如き迅速な勢いで、もうすでにさわっていた。つぎの瞬間彼等は凡て、ちょうど空が落ちて来たかのようなおそろしい身振をもって、ある者は前に、ある者は後に、突進した。
教授が黄金の十字架に一指をふれた時に、石の蓋を支えるためにごくかすかに曲っていた、棒が飛び上ったので彼等は身振いをしてかたくなったように思われた。石の平板《へいばん》の縁が木の
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