、思わずうっとりして我を忘れて感嘆の声を久しゅうした。薄命の王妃エジスの憂れわしい姿は、百合の花が雨に打たれた風情とも見られた。見よ、彼女の白衣はしゅうしゅうと吹き来る風に飜り、歩むも危き脛《すね》もあらわに、空にひろげた細腕にはあらゆる恐怖とあらゆる悲愁の情が刻まれるとも見えた。ああ絶望の微笑をうかべた横顔、それはまことに世にも類いなき哀れさであった。
『何という悲しい微笑でしょう! そして何と[#「と」は底本では欠落]いう美しい微笑でしょう! スパルミエントさん。何だか奥様を思わせるような顔付ではありませんか。』
 一批評家はふとこう言った。他の人々はそれを熱心に聞いていた。
『まったくですね。私もすぐそう思いましたよ。あの首筋のしなやかな曲線、その細い手、横顔といい、姿といい、物腰といい、どうも似通っていますね。』
『ハハハハ、そうですかな。実は私がこの壁布を買い求めましたのも、これがよく似ていましたからですよ。いやそればかりではありません。どうも妙な縁で、家内の名もエジスというのです。』
 大佐はなお笑いながら、
『でも、何ですね、壁布のエジスと、家内のエジスと似るのは結構です
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