ョン・ホワードから、ドーブレク代議士に、見本通りに製作した水晶の水差しを送ったもので、「水晶」と云う文字に気が付きましたから、私は早速ストーアブリッジに参りまして、その店の副支配人を買収して聞き正しました所によりますと、代議士の註文通り、「水晶の内部を空洞となし、その空洞なる事を何人といえども看破し得ざる様に」製作したものだそうでございます』
『フーム。なるほど、間違いのない調査ですな。けれども、私の思うには、金の線の下と云うと……隠匿場所は実に微小なものですね』
『微小ですが、それで十分なのです』
『どうして知りましたか』
『プラスビイユから』
『じゃあんたは知っていたんですな?』
『ええ、その当時から、その前までは、夫《たく》も私《わたくし》も、ある事件のためにあの方とは一切関係を絶っておりました。ブラスビイユはずいぶん卑劣な性《たち》で、それでいて浅薄な野心家でして、両海運河事件には実に醜劣な仕事をしていたのでございます。収賄ですか? きっとしています。しかしそんな事を関《かま》ってはいられませんでした。私は助力者が欲しかったのです。当時あの男は警視庁の官房主事に任ぜられましたの
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