いる調査の手段、それ等は皆、私が数年前から試みたことで、すべて無駄でございます。私はほとんど絶望の淵に沈みましたが、ある日アンジアンの別荘にドーブレクを尋ねて参りまして、ふと書斎の卓子《テーブル》の下の屑籠の傍へ投げ出されあった皺苦茶の手紙の片端を見ましたので、何心なく拾い上げて読みますと、自筆の覚束ない英語で、
[#2字下げ]「水晶の内部を空洞となし、その空洞なる事を何人といえども看破し得ざる様に御製作|相成度《あいなりたし》……」
 と書いてございました。この時庭に居りましたドーブレクが大急ぎで駈けて参りまして四辺《あたり》をしきりに捜し廻らなかったらば、私はおそらくこんな紙片《かみきれ》を気に留めなかったでございましょう。あの男《ひと》は、猜疑《うたぐり》深い目で私を見ながら、
「ここにあったはずですがな……手紙が……」
 私は何の事か解らない風を装っていましたので、それ以上別に何とももうしませんでしたが、その急々《そわそわ》した様子を私は見逃しませんでした。その後一ヶ月ほど致しまして、私は広間の暖炉《ストーヴ》の灰の中から英文の手紙の半片を拾いました。ストーアブリッジの硝子商ジ
前へ 次へ
全137ページ中98ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング