『プラスビイユさんも、私《わたくし》ども同様何も解りません。恐らくドーブレクが女を連れて、どこかへ逃げようと致しました処、女優さんが云う事を聞かず、激しく抵抗したので、かっとなって喉を掴んで殺してしまったのでしょう。しかしそれにしても証拠が一ツもないのでついそれなりになってしまいました』
『それからドーブレクはどうなりましたか?』
『それから数年の間は、何をしていたかちっとも消息《たより》を聞きませんでしたが、噂によりますと、何《な》んでも賭博ですっかり財産を無くしてしまい、内地にも居られなくなってアメリカに渡ったそうです。そんな訳ですから、私《わたくし》も、忘れるともなしにあの脅迫や憤怒のことを忘れてしまい、ドーブレクもう私の事を断念《あきら》めて、復讐の念を断った事と存じていました。その内に良人《おっと》が政界に出ましてからは、良人の出世とか、家庭の幸福とか、アントワンヌの健康なぞに心をとられていました』
『アントワンヌ?』
『ええ、実はジルベールの本名なのでございますが、さすがにあれも、身を恥じて本名を隠していたのでございましょう』
 ルパンはちょっと躊躇していたが、
『で、
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