うが、真の恋は躊躇《ためら》い、怖れるかと申しまして、私《わたくし》も確とした意見も言わず、あやふやに過して参りました。不幸《ふしあわせ》な事には、私《わたくし》ども二人がこうした隠れた恋に酔いまして、時期を待っています間に、ドーブレクの思いをいよいよつのらせました、で、全く話が決った時の、ドーブレクの憤怒《いかり》と云うものは一通りではございませんでした。……』
クラリス・メルジイはちょっと話を止めたが、怖ろしい想い出に身をふるわせつつ、
『今でも決して忘れは致しませんが、……三人が客間に落ち会いました時……そのドーブレクが恋の遺恨から吐き出しました悪口雑言《あくこうぞうごん》、あの凄い声は今だに私の耳に残っております。ビクトリアンも困ってしまいましたほど、あの時の様子の怖ろしさ、獣の様な……、ええ、怖ろしい野獣の様な表情を致しまして……歯を喰いしばり、足をふみならして申しました。その眼色《めいろ》……当時眼鏡はかけておりませんでしたが……ギロリと光る眼をきっと見据えまして、『この恨は晴らすぞ……きっと晴らしてやるぞ……貴様達に俺の力はわかるまいが……俺は待つ、十年でも、二十年でも
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