ックを着けた紳士が恐々《おずおず》と随いて来た。彼は古い山高帽やダブダブの雨傘や汚い手袋などを両手に持って極り悪るげにモジモジしていた。
『この方は文学士のニコルさんで、ジャックの家庭教師を御願してございますが、私どもとはごく親しい間柄で、私も何によらず御相談を願っている方でございます。私どもの計画していました事もすっかり無駄となりまして、落胆致しました。ドーブレクの行方につきまして何か手懸りでもございましたでしょうか?』
『いや、弱りましたよ。何一ツ証拠にする様な物もなし、まるで風の様にサッと来てアレアレと云う間に攫ってしまったのですからなあ……』
プラスビイユもよほど閉口しているらしかった。
『で、残り物と云えば出口の鋪石《しきいし》の上に賊どもが取り落して破したものらしいこんな象牙の破片が落ちていました。……どうです、ニコルさんとやら何とか見当が付きますかね?』
彼は嘲笑的口調で、暗に意見を促した。ニコル教師は椅子から動こうともせず、伏目がちになって、頻りに帽子の縁を撫で廻して、その遣場に困っているらしい。
『閣下、いかがでしょう。この象牙の破片が何とか物になりませんでしょう
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