も招待してやるから、楽しんでいるがいい。ハハハハ、だが、もうこうなった以上は、オイ、ルパン、トット出て行ってもらおうよ』
 ルパンは無言のまま、物凄い眼光を据えて相手を見詰めた。ドーブレクも思わず身構えをした。両雄の虎視まさに眈々、ハッと思う刹那ルパンの手は懐中へ入る。と同時にドーブレクも懐中のピストルを握る。二秒三秒……冷然としてルパンは手を突き出した。掌上には小さな金紙を貼った小函一箇。開いたままドーブレクに差し出した。
『飴菓子《ドロプ》よ?』
『な、何んにするんだい?』とドーブレクは面喰った。
『ビクビクするない。ジェローデルのドロップだよ』
『何んにするんだ?』
『だいぶ熱があるから風薬に嘗めるんさ』
 意表の悪戯に、代議士が度肝を抜かれて周章《ふた》めいている隙に、ルパンは素早く帽子を鷲攫みにしてプイと室外へ抜けた。
『今の趣向は我ながら。秀逸々々』と彼は玄関を通りながら笑った。『面喰った醜態《ざま》ったらないね。毒薬と思いきや、ドロップを出されたんで、山猿め、すっかり毒気を抜かれやがった。ハッハハハ』
 門を出るとちょうど一台の自動車が邸内に走り込んだ。ブラスビイユを先頭
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