付いた。まだ一人ある』
『ジルベールか?』
『貴様に頼むが、ジルベールの救助に一骨折ってくれ』
『馬鹿。ヘン御断りよ』と云った代議士の相貌にはみるみる野獣の本性を現して来た。『ヘン。御断りだ。俺は二十年来、今日ある事だけを待つために生きて来たんだ。メルジイ自身で来て俺の前で嘆願すりゃ、そりゃ次第によっては聴いてもやろうさ。だが貴様だけじゃ、御断りだ』
『どうしても聴かなきゃ、聴かないでいいさ。ヤイ、ドーブレク。俺の云う事を、よっく覚えていろッ。いずれ俺はある方法で、貴様に致命傷を与えてやる。その時に泣顔を掻くな。……何ッ。例の連判状を貰いに来るからその積りで用心しろ』
『フフン。奪るとな、笑わせやがる。アッハハハ』
『[#「『」は底本では「 」]勝手にしやがれ。だが、俺が思い立ったら最後成就せずにゃおかねえから。ヤイ。俺を誰れだと思う。アルセーヌ・ルパンだぞ』
『俺はドーブレクだ。フン。勝手にしやがれさ、……だが、いよいよジルベールの死刑が確定すりゃあ、いやでも俺の袖に縋るより外はないのだ。メルジイは誰が何と云っても俺の妻さ。アレキシス・ドーブレク夫人となるのさ。いずれ結婚披露には貴様
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