て参りました。目の当りに会ってみますれば、あんな無益者《やくざもの》でも、やはり我子は可愛うございます。それに弟のジャックに頬摺をして、泣いて詫びますので、私もあれの罪を許してやりました』と云って婦人は声を低くめた。
『その後父の事、またドーブレクの奸悪な手段等を話して聞かせますとジルベールも涙を流して口惜しがり、親の讐《あだ》、家の仇《かたき》、また自分の敵であるあのドーブレクを命にかけても生かしてはおかないと、ごく秘密の裡にあの児と力を協せて事を計っておりました。そして最初あれの考えでは第一にあなたの御力をからなければならないと……』
『そうとも……ぜひそうなければならないです』とルパンが叫んだ。
『ええ、私もそう存じました。けれども、悲しい事には、御承知の通りジルベールは至ってお人好しですから、つい、仲間のものにだまされて巻き込まれてしまいました』
『ボーシュレーでしょう?』
『ハイ。あの男は実に強欲な狡猾な奴で、私どもがあの男を信じたのがそもそも間違いでございました。これは後でグロニャルとルバリュに聞きましたんですが、ボーシュレーは連判状を手に入れると、あなたを警察に引き渡した
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