ある。今度はまた室が小さくなっている。
 少年は、奇巌城の中の有様を見ることが出来た。奇巌城は先へ行くほど尖っているから、室がだんだん小さくなるのだ。四番目の室はもう電灯も点いていない。穴から見ると、眼の下十|米《メートル》ばかりの所に蒼い海が見える。少年は初めて、ガニマール探偵たちと遠去かったことに気づいて心細くなった。もう今度で止そうと思ってまた次の階段をのぼった。そして恐る恐る扉を開けた。この室は他の室とは違っている。壁には肘掛《ひじかけ》の布《きれ》があり、床《とこ》には絨氈が敷いてある。立派な食器を入れた二つの大きな戸棚がおかれ、外へ突き出た巌の裂目には硝子を[#「硝子を」は底本では「消子を」]嵌めて、小さい窓が出来ている。
 室の真中に、美しい食卓があって、レースの卓子《テーブル》掛が掛けてあり、その上には、果物皿や、菓子皿や、お酒の壜や、眼も覚めるような美しい盛花《もりばな》などがおいてある。そしてそこには三人分の皿がおいてある。少年が近づいてみると、その坐る場所に名前を書いた札がおいてある。
 初めのを読むと、「アルセーヌ・ルパン。」
 それと向き合って、「アルセーヌ・
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