も、ショルムスのこともみんな忘れて、ただ眼の前に開けていく美しい景色、真蒼な大空、緑色の渺々《びょうびょう》たる大海、暖かい日の光を浴びて輝いている絵のような景色に見とれて歩いていた。
まもなく行手《ゆくて》に一個の城のような建物を見た。それは大巌《おおいわ》の岬の上に建ててある。少年はその大巌の上にやっとのぼりついた。その城の門にはフレオッセと書いてあった。別に城の中に入ってみようともせず、小さな洞穴《ほらあな》を見つけてそこに休んだ。少年は疲労《くたびれ》が出てうとうとと眠った。しばらくして洞穴《ほらあな》を吹いてくる風に眼を覚ました。少年はまだすっかり頭がはっきりしないらしく、坐ったままぼんやりしていたがやがて起き上ろうとした。その時少年ははっとしてじっと前の方の一つところを見つめ初めた。
身体中が慄えて、大粒な汗がにじみ出てくる。少年は夢ではないかと思った。そして急に膝をついた。その床《とこ》の巌の上に、一尺ばかりの大きさに浮彫になっている二つの文字《もんじ》が現われている。それこそDとF!
DとF!例の暗号の紙切に現われているDとF!忘れもしない第四行目にあるDとFでは
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