ないか。
 少年はまた嶮《けわ》しい道を降りていった。その時一人の羊飼がたくさんの羊を連れて帰っていく姿を見て、その方に駆けていった。
「ね、君、あの、ほらあそこに見える洞穴《ほらあな》ね、あれは何という名前ですか。」
 少年は唇が慄えてはっきりといえないほどであった。羊飼はちょっと吃驚《びっくり》したが、
「ああ、あの洞穴《ほらあな》は、このエトルタのものはみんな令嬢室《ドモアゼルむろ》と呼んでるだあ。」
 少年は飛び上ってしまった。令嬢室《ドモアゼルむろ》、令嬢《ドモアゼル》、ああ、紙切の暗号の中から見つけた言葉はこれであったのか!
 少年はまた巌の上にのぼっていった。少年は突然地にはらばってしまった。ルパンの部下が見つけでもしたら少年の身体は無事ではいないだろう。少年ははらばいながら岬の端《はじ》へ出て下を覗き込んだ。少年のすぐ眼の下に底の知れない蒼海《あおうみ》の真只中《まっただなか》から、空中につっ立っている一つの大きな大きな巌がある。高さが四十間以上もあり巨大な針のように上の方へ行き、次第にだんだん細くなっている有様は、ちょうど大怪物の牙のようである。ああ針の形をした奇巌城
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