れていた。身装《みなり》はちょうど英国の僧侶のように黒い物ずくめで、見るからに自然と頭の下《さが》るような、いかめしさと重々しさとをそなえていた。やがてその紳士は口を開いた。
「ボートルレ君、我輩《わがはい》はまず君に、君が我輩の手紙を見て気持よく逢ってくれたことに、御礼を申し上げなければならない。」
「そして、あなたが?……」とボートルレはいった。紳士はじっとボートルレを見ながら静かにいった。
「そう、我輩です、アルセーヌ・ルパンです。ボートルレ君。」
 アルセーヌ・ルパン!おお彼巨人アルセーヌ・ルパンは再び姿を現わした。かの僧院の陰惨な土窖《つちあな》の中に苦しみ悶え、ついに無惨な死を報ぜられたアルセーヌ・ルパン!彼はやはり生きていたのであった。しかも今見る彼ルパンの元気溢れていることよ!彼はボートルレ少年に逢い、何をしようとするのであろうか。
「我輩は……」とルパンは笑いながらいった。
「我輩はとにかく出来る限り活動するのです。そのためには種々《いろいろ》な手段もとらなければならない。我輩はもう君が、自分の身の危険には構われないということを知りました。残るところは君のお父さんです。……君がまたたいへんお父さん思いであるということを知っているので、だから我輩は最後の手段をとろうとするのです。」
「だから僕、ここへ来たんです。」とボートルレは微笑んだ、「手紙の中にある嚇し文句も、私のことなら何でもないのですが、それが私の父のことなんですからね。」
「まあ、椅子へ掛けましょう。」とルパンはいった。
「とにかくその前にボートルレ君、あの判事の書記が君に乱暴したことを僕は謝らなければならない。」
「いや、実際あれには僕も少し驚きました。だってルパンのやり方ではないんですもの。」
「そう、実際、あれは我輩の少しも知らないことだった。あの部下はまだ新米なので、我輩の命令に背いて勝手にしてしまったことなんだ。我輩はあの部下を厳しく罰しておいた。君の蒼い顔を見てはいっそうお気の毒です。勘弁してくれますか。」
「あなたは今日僕をこんなに信用して下すったんだから、それでもうあの書記のことは忘れましょう。だって僕がそうしようと思えば警官を連れてきて、あなたを捕縛することも出来たんですもの。」とボートルレは笑いながらいった。
 ボートルレは絶えず美しい無邪気な微笑《ほほえみ》を浮べ、親
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