しげな、それでいて丁寧な態度をとっている。少しもその態度には偽りがない。
 ルパンはこの無邪気な愛くるしい少年に対して、少《すくな》からず困っているようであった。彼は自分のいいたいことを、どういう風にいい出そうかと迷っているようであった。
 その時玄関の呼鈴がなった。ルパンは急いで立っていった。
 彼れは一通の手紙を持って戻ってきた。
「ちょっと失礼。」といいながら手紙の封を切った。中には一本の電報が入っていた。彼はそれを読んだ。とみるみるその様子は変ってきた。その顔色は輝き出した。彼はすっくと立った。彼はもはや、常に争い闘い、何物をも支配しようとする巨人、人類の王であった。
 彼はその電報を卓子《テーブル》の上に披《ひろ》げて、拳を固めてどんと卓子《テーブル》を打って叫んだ。
「さあ、今じゃあ、ボートルレ君、君と我輩との相討《あいうち》だ。」

            勝つものは誰か

 ボートルレは改まった態度をとった。ルパンは冷《ひや》やかな厳しい口調で語り出した。
「おい!君、お体裁は止めよう。我々はお互に、どうしたら勝てるかと相争う敵《かたき》同士だ。もうお互に敵として談判を始めよう。」
「え!談判?」とボートルレは吃驚《びっくり》したような調子でいった。
「そうだ、談判さ。俺は君に一つの約束をさせなけりゃ、この室《へや》を出ない決心だ。」
 ボートルレはますます驚いたような調子だった。彼はおとなしくいった。
「僕はそんなつもりはちっともしていませんでした。なぜそんなに怒っているんです。境遇が変っているから敵《かたき》だというんですか、え、敵《かたき》って、なぜです?」
 ルパンは多少|面喰《めんくら》った態であったが、
「まあ、君、聞きたまえ、実はこうだ。俺はまだ君のような対手《あいて》に出っ会《くわ》したことがない。ガニマールでもショルムスでも俺はいつも奴らを嬲《なぶ》ってやったんだ。だが俺は白状するが、今は俺の方が君に負けていると見なければならない。俺の計画した仕事は見事に破られた。君は俺の邪魔だ。俺はもうたくさんだ、我慢が出来ん!」
 ボートルレは頭を挙げて、
「では、あなたは僕にどうしろというんです。」
「人は自分々々の仕事があるものだ。それより余計なことはしないようにするものだ。」
「そうすると、あなたはあなたの好き勝手に強盗を働き、僕は勝手に
前へ 次へ
全63ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング