歳の天才少年にすべてを見破られようとする時、この少年を倒し、またルパンの二大強敵、ショルムス及びガニマールは見事に負けてしまった。今やルパンの一味は天下に敵なしとなった。かの大胆不敵のルパンに当ることの出来る者は天下に一人もなくなったのだ。

        四 侠少年対怪盗
            真相発表近し

 ボートルレ少年の負傷は初め幾日かの間は危いとさえいわれた。
 事件はすべてルパンの死んだことによって終ったようであった。しかし少年ボートルレがまだ終ったといっていない以上は、この悲劇はまだ終ったのではないのだ。どんなことがまだ終っていないのかそれは誰も知らない。ただボートルレ少年だけがそれを説明することが出来るのだ。
 世間の人がボートルレ少年の負傷を心配するのは大変なものであった。やっともう心配はないと医者が発表した時には、人々は大喜びをした。
 その後傷はたいへん良くなった。少年が判事に話し出そうとした(|空の針《エイギュイユ・クリューズ》)の本当のことはまもなく世間に知らされるだろう。エイギュイユ・クリューズ!果してこれにはどんな秘密が隠されているのであろう。
 それはまもなく知れようとしている。ボートルレが近いうちにまた来《きた》るべきことを新聞は書き立てた。闘いはまさに始められようとしている。今度こそ少年は怨みの復讐に燃えて決心が堅い。一つの新聞に大きな字で次のようなことが書いてあった。
「ボートルレ君は、まだどこにも知られていないジェーブル伯邸の事件真相を、明日我が新聞に発表されることを承知せられたり。」

            ルパンの再現

ボートルレは一通の手紙を受けとった。まだ傷が治ったばかりで幾分顔色のよくない少年の顔は、その手紙を読んでいくうちにさっと蒼くなった。彼はしばらく眼をつぶって考えていたが、やがて何事かを決心したようであった。
 その夜少年は、一人の紳士に案内されて一つの部屋へ入った。紳士は一言《いちごん》も口をきかず重々しい態度で室内の電灯をみんな点けた。室内にはたちまち明るい光がいっぱいに流れた。この時二人は始めて眼と眼を見合せた。その眼光の鋭さ、らんらんと燃ゆるような四つの眼は、お互《たがい》の胸の底まで見抜こうとする物凄いものであった。
 その紳士の顔付《かおつき》は逞しく、長い髪の毛は茶褐色で、髯は左右に分
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