ひたってしまった。だが、じっとしんぼうして、輪にすがってさえいれば、やがて岩に引きあげられるのだ。運がわるいと、なんべんも海水を飲むし、浅いところでは、底の岩に、どしんとからだをたたきつけられることも、たびたびである。けれども、泳ぐよりは安全だ。索道や通い索が、切れさえしなければ、命にかかわりはない。
国後は、波まにかくれたり、あらわれたりして、だんだん船から遠くなっていったが、やがて、索をたぐる運転士と水夫長の力で、岩の上に引きあげられた。国後は、索の輪からからだをほどいて、岩の上で高く両手をふっている、索道わたしは、あんがいうまくいくではないか。
船では、通い索をたぐって、輪を引きよせ、こんど、最年長者の、小笠原《おがさわら》老人をくくりつけて、
「それ引け」
と、あいずをすると、岩の上の三人は、「よし」とばかり、ぐんぐん通い索をたぐって、たちまち、また一人が岩に着いた。
こうしてつぎつぎに、私を残した十五人は、みんなぶじに、岩の上にあつまった。
索道わたしも、もう心配はない。あとは、必要品の、陸あげをしなければならない。一人船にのこった私は、
「だれか、本船へ来い」
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