、その索道にはめてある、索の輪を動かすための、通《かよ》い索《づな》である。この通い索を岩の上でたぐって、船の方をのばせば、輪は索道をすべって、岩の方へ行くし、船でたぐって岩の方でのばせば、輪は、船の方へくるのである。
 輪についた通い索を、船と岩とで、かわり番に引っぱってみると、試運転はうまくいった。これで、みんなが、岩にあがろうというのである。
 そこでまず、この輪に、最年少者の漁夫の国後《くなしり》が、腰をかけると、そのがっちりした胴中《どうなか》を、しっかりと索で輪にくくりつけた。かれは、両手で輪にすがって、岩の方をむいた。
 船では、みんなが、通い索をのばし、岩の上では、運転士と水夫長が、よんさ、よんさ、と通い索をたぐりはじめた。
 しかし、索道の索は長い。一方は、ひくい岩に止めてあり、船の方でも、そんなに高いところには止めてない。いくらぴんとはっても、索道のまんなかは、索の重さでたれさがって、波につかっているのだ。この索道に通してある輪に、人をくくりつけて送るのだから、人の重さで、索道はいっそう、たれさがってしまう。
 漁夫の国後は、船をはなれると、すぐに、立ちさわぐ波に、
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