ている。
 船から百メートルぐらいのところに、かなり大きな平らな岩が、水上に頭を出している。その岩と船との間に、わき立つ大波が、あばれくるっている。
「たぶん、島が見えるだろう。マストにのぼってみろ」
 いまにも倒れそうな帆柱《ほばしら》に、二人ものぼらせたが、朝もやがじゃまして、島を見せてくれなかった。
 私は、海図と水路誌の記憶によって、一同に申しわたした。
「島は見えない。ひとまず、近くのあの岩にあがって、それから島をさがしに行こう。船長は、さいごに上陸するが、船長が上陸できなかったら、一同は、ここから北の方に進んで行け。きっと島がある。その島に水がなかったら、北西の、つぎの島へわたれ。それが、ミッドウェー島だ」
「さあ、上陸だ。用意をしろ。持ち出す物をわすれるな。みんな、できるだけたくさんに服を着ろ。冬服も夏服も着ろ。くつ下をはいて、くつをはけ。帽子をかぶって、その上から、手拭《てぬぐい》やタオルで、しっかりと頬かぶりをしろ、おびになるものは、何本でもいいから、しっかりと胴中をしばれ。ジャック・ナイフ(水夫の使う小刀)を落さぬように――」
 みんなは、エスキモー人のように着ぶく
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