、
ぐゎっ。
腹に、びりっ、とこたえた。あ、二本とも切れたな、と思ったとき、
「左舷も切れた」
うなるようなさけびが、船首にあがった。もういけない。
「総員、予備錨用意」
私は、大声で号令した。これが、最後の手段なのだ。
「あっ」
ごう、ごう、ひびきが聞えてきた。まっくらやみで、まわりはなにも見えないが、岩と戦う波のひびきだ。
暗礁は近い。船は、切れた錨鎖を海底に引きずったまま、ぐんぐん岩の方へおし流されている。危険は、まったくせまってきた。あぶない。このままでは、船体は暗礁にぶつかって、めちゃめちゃにこわれてしまう。そして、沈没だ――
船の運命は、今はただ、まんいちの用意につんである、予備錨にかかっている。総員は必死に、予備錨の用意にとりかかった。
まだ、大波にゆられる、小船の上の経験のない君たちには、このときのようすは、想像もつくまい。なにしろ、まっくらやみで、まわりはなんにも見えない。夜中の一時すぎ、二時ちかくだ。
ふかい海から、力強く、ぐっとおしてくる大きなうねりが、海面に少し頭を出している暗礁に、すて身の体あたりでぶつかる。それがはねかえってきて、あとからあ
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