かっている者のさけぶ声。浅くなりかたが、とても急だ。船は、一秒、一秒、暗礁の方に流されて行くのである。
「二十尋」(三十六メートル)
もうあぶない。
「右舷《うげん》投錨」
の号令をくだした。
どぼん。がらがらがら……右舷の錨が、船首から海に落ち、つづいて錨の鎖の走り出すひびきも、いつもとはちがって聞える。事情は、まったく切迫している。
ところが、海底は岩で、錨の爪《つめ》がひっかからない。船は、錨をがらがらひきずって、なおも流されている。
浅い海底の岩にあたって、はねかえる波と、沖の方からうちよせる波が、深夜の海に、さわぎくるうのであろう。船の動きかたのはげしいこと、甲板《かんぱん》上の作業も、じゅうぶんにはできなくなった。
「錨が、ひけますっ」
のどもさけろとばかり、大声の報告だ。船は、錨で止らずに、暗礁へむかって、どんどん流されて行くのだ。あぶない。
「左舷投錨」
私は、すぐ号令した。左舷の錨も投げこまれた。二つの錨は、やっと海底を、岩を、しっかりとかいて、錨の鎖がぴいんとはった。
その時は、運転士と水夫長が、船首で錨をあつかい、船長の私は、船尾《せんび》甲板で
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