そばで、深さをはかっていた水夫が、
「百二十尋の測深線が、とどきました」
 と、おどろいたような声で、報告した。
 これを聞いたとたんに、私は、
「総員配置につけっ」
 と、どなって、やすんでいる者を、みんな起させて、非常警戒をさせた。
 海の深さを、すぐつづいてはからせると、
「六十尋」(百九メートル)との報告があった。
 百二十尋が、たちまち六十尋と、浅くなっているのだ。これは、船が、パール・エンド・ハーミーズ礁《しょう》にちかづいている証拠だ。パール・エンド・ハーミーズの珊瑚礁《さんごしょう》は、きりたった岩で、深い海のそこから、屏風《びょうぶ》のように岩がつき立って、海面には、その頭を、ほんの少し出しているのだから、岩から半カイリぐらいのところでも、六十尋の深さはあるのだ。
 船が、パール・エンド・ハーミーズの暗礁におし流されて行くことは、もうのがれられないことになった。もっと浅いところへ行ったら、海の底が、砂でもどろでも岩でもかまわない、錨《いかり》を入れなければならない。私は、
「投錨《とうびょう》用意」
 の号令をかけた。つづいて、
「四十尋」
「三十尋」
 と、深さをは
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