ながらも、ときどき、海の深さをはかったが、測深線は海底にとどかない。潮の流れは速い。どうなることかとみんな心配していた。
 ぶきみな、不愉快な十九日は、こうしてくれてしまった。

   暗礁《あんしょう》をめがけて

 夜空には、星ひとつ見えない。ひるま、黒ずんだ藍色の海が、もりあがり、またへこんで、船を動揺させたうねりは、まっ黒い夜の海に、いっそう大きく、上下に動いて、どこへ船をおし流して行くのであろうか。
 大自然の、目に見えない縄でしばられたように、船と乗組員は、どうすることもできず、潮流の勝手にされている。うねりは、人間のよわさをあざ笑うように、船をゆすぶっている。こういうときの船長の苦心は、経験しない人には、いくら説明してもわかるまい。
 船内に、時を知らせる夜半の時鐘が、八つ、かかん、かかん、とうち鳴らされた。この八点鐘が鳴りおわって、二十日の零時となった。
 それから、一時間ぐらいたったときであった。私は、自分の部屋を出て、船尾の甲板で運転士と話していた。
「どうもこまったね。風はふきだしそうもない。ともかくも、つづけて深さをはからせてくれたまえ」
 といっていると、すぐ
前へ 次へ
全212ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
須川 邦彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング