》の船長となられた。
 この、報効義会というのは、郡司成忠《ぐんじしげただ》会長のもとに、会員は、日本の北のはて、千島列島先端の、占守《しゅむしゅ》島に住んで、千島の開拓につとめる団体で、龍睡丸は、占守島と、内地との連絡船として、島の人たちに、糧食その他《た》、必要品を送り、島でとれた産物を、内地に運びだす任務の船であった。
 龍睡丸が、南の海で難破《なんぱ》してから、中川船長は、練習船琴ノ緒丸の、一等運転士となり、私たち海の青年に、猛訓練をあたえていられたのである。
 私は、中川教官に、龍睡丸が遭難して、太平洋のまんなかの無人島に漂着《ひょうちゃく》したときの話をしていただきたいと、たびたびお願いをしていたが、それが、今やっとかなったのであった。
 日はもう海にしずんで、館山湾も、夕もやにつつまれてしまった。ほかの学生は休日で、ほとんど上陸している、船内には、物音ひとつきこえない。

 以下物語に、「私」とあるのは、中川教官のことである。

   龍睡丸《りゅうすいまる》出動の目的

 須川《すがわ》君には、長い間、無人島の話をしてくれと、せめられたね。今日はその約束をはたそう。
 
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