問題の龍睡丸というのは、七十六トン、二本マストのスクーナー型帆船で、占守島と内地との、連絡船であった。
 占守島が、雪と氷にうずもれている冬の間は、島と内地との交通は、とだえてしまう。それで、秋から翌年《よくねん》の春まで、龍睡丸は、東京の大川口につないでおくのだった。これは、まったくむだなことで、そのうえ、船の番人だけをのこして、うでまえの達者な乗組員は、みな船からおろしてしまっていた。
 だから、春になって、船がまた出動しようとして、急に乗組員をあつめても、なかなか思うような人は集められない。これは、龍睡丸にかぎらず、北日本の漁船や小帆船は、みな、こんなありさまであった。
 そこで、船が、この冬ごもりをしている間に、南方の暖かい海、新鳥島《しんとりしま》から、小笠原《おがさわら》諸島方面に出かけて行って、漁業を調査し、春になって、日本に帰ってくる計画をたてた。
 もしこの結果がよければ、冬中つないでおく帆船や漁船が、二百|隻《せき》もあったから、その船が、南方に出かけて働くことができる、これは、日本のために、ほんとにいいことだ。まず龍睡丸が、その糸口をさがしてこよう。こうして、私は
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