わけがあるのだ。
 機械の力で走る汽船は、風や海流にかまわず、目的の方向に一直線に走れる。速力もわかっている。それだから、自分の船のいるところは、大洋のまん中でも、どこかわかっている。しかし帆船では、風を働かせて船を進めるのだから、風のふく方向や、風の強さ、それから海流などに、じゃまをされて、汽船のようには進めない。
 それで、大海原《おおうなばら》で、帆船が汽船に出あうと、
「ここはどこですか」
 と聞くのだ。これは、世界の海の人のならわしである。
 水平線の一筋の煙は、太く濃くなって、やがて、帆柱、煙突、船体が、だんだんに水平線からうきだしてきて、近くなった。私たちは、大きな日の丸の旗を、船尾にあげた。船は小さくとも、日本の船だ。十六人の乗組員は、日本国民を代表しているのだ。むこうの汽船では、アメリカの旗をあげた。
 午後三時四十分、両船の距離は八百メートルとなった。本船は、帆柱に万国信号旗をあげて、汽船に信号した。
「汝《なんじ》の経緯を示せ」
 汽船は、わが信号に応《こた》えて、多くの信号旗をあげた。その信号旗の意味をつづると、
「西経百六十五度、北緯二十五度」
 これで、本船
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