しゃべっている。
「さあ、さあ、わかい連中は、砂を運んだ、運んだ。お山ができたら、そのてっぺんに、おいらが立つね。そうしていちばん先に、帆を見つけるのだ。いい声でどなる。
帆だよう。船だあ。
するとおまえたちが、飛び出してくる。まっ白い帆をかけた、まっ白い船が、島へちかよって、ボートをおろすね。ぐんぐん漕《こ》いでくる。おなかがへっているだろうといって、ミルクとバターとお砂糖の、うんとはいったビスケットを持ってくるね。まあ、こんなもんだ。みんな、砂運びにせいをだせよ」
一同は、思わず笑顔になる。一人が、
「おやじさん、へたばったのか」
というと、
「なによ、わかい連中に、まけるものか、うんとこしょ」
小笠原は、砂を入れた石油缶をかかえたが、持ちあがらない。しりもちをついて、赤いもじゃもじゃひげは、砂だらけ。みんな、おなかをかかえて大笑いをする。笑うと、つかれがぬける。こうして、苦しい砂運びを、愉快につづけるのであった。
私は、先にたって、砂を運びつづけた。五日めには、腹ぐあいが、とてもわるくて、はげしく痛みだした。すこし休んだらよくなるかと、作業場をはなれて、天幕《テント》にはいったが、みんな苦しい思いをして働いているのに、じぶん一人、ごろり横にもなれない。しかたなく、万年灯《まんねんとう》をつりさげてある丸太に、腰をかけた。
ここから、砂運びをする人たちの、働くすがたを見ていると、みんな病人で、ゆるやかに動いている。しかし、それは、大洋の波が、ゆるやかではあるが一つの方向に、はてしもない強い力でどこまでも進んで行く、あの偉大なすがたとおなじような感じが、せまってくる。それは「力」だ。なんでもやりとげるまでは、おし進む、あたってくだくか、くだけるか、そこしれぬ力だ。砂運びをする人たちは、砂山つくりの目的に、身も心もうちこんで、全員一かたまりとなって、下痢や腹痛に苦しみながら、たださかんな精神力だけで、動作はゆっくりだが、たゆまずに進んでいるのだ。これが、日本の海の勇士の、すがたなのだ。なんというりっぱなすがただ。しぜんに頭がさがる。
だが、日ざかりの強い日光は、はだかの全身をじりじりとてりつけて、病人からあぶら汗をしぼりださせ、白い珊瑚《さんご》の砂に反射する日光は、きらきらと目をいるのだ。日かげの天幕のなかでさえ、この大自然の熱い熱い息が、ふうっと
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