てくれ」
 まっ先に水夫長がいった。
「運転士に、おまかせします」
 一同は、うなずいた。
「それでは、漁業長、魚とかめをたのみます」
 運転士がいうと、小笠原《おがさわら》は、漁業長の顔を見て、にっこり笑って、例のくせで腕をたたいた。
「この老人が、みんなのおなかは、すかせないよ」
 たのもしいことばだ。
 荷物のせいとん当番は、荷物の整理、衣服、毛布、索《つな》、帆布《ほぬの》などを日にほし、筏《いかだ》にした円材や板をかたづけたり、伝馬船《てんません》をよく洗って、浜にひきあげるなど、それぞれに、みんな一日中、いそがしく働いた。

   心の土台

 きれいな砂の上に、みんなは、よく眠っていた。五月二十二日、無人島生活二日めの、朝早くであった。
 私は、しずかに起きあがった。そして、運転士と漁業長と、水夫長の三人を、そっと起した。四人は足音をしのばせて、天幕《テント》の外に出た。
 あかつきの空には、星がきらめき、島も海も、まだ暗い。私は、すぐに海にはいって、海水をあびて、身をきよめた。つれだった三人も、無言で、私のするとおりに海水をあびた。
 水浴がすむと、四人は深呼吸をして、西からすこし北の日本の方を向いて、神様をおがんだ。それから、島の中央に行って、四人は、草の上にあぐらをかいてすわった。
 私は、じぶんの決心をうちあけていった。
「いままでに、無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって、死んで行ったりしたのは、たいがい、じぶんはもう、生まれ故郷には帰れない、と絶望してしまったのが、原因であった。私は、このことを心配している。いまこの島にいる人たちは、それこそ、一つぶよりの、ほんとうの海の勇士であるけれども、ひょっとして、一人でも、気がよわくなってはこまる。一人一人が、ばらばらの気もちではいけない。きょうからは、げんかくな規律のもとに、十六人が、一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、ほんとうに男らしく、毎日毎日をはずかしくなく、くらしていかなければならない。そして、りっぱな塾か、道場にいるような気もちで、生活しなければならない。この島にいるあいだも、私は、青年たちを、しっかりとみちびいていきたいと思う。君たち三人はどう思っているかききたいので、こんなに早く起したのだ」
 運転士は、いった。
「よく
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