なぎさに投げておいて、一羽のアホウドリをつって、いけどりにした。そして、細い縄で、大きなくちばしを、しっかりとしばってしまった。
「人間さまの魚をとるから、こんなめにあうのだぞ。――舌切すずめの話を知っているか。おいらたちには鋏《はさみ》がないから、こうするんだ。おまえたちは、海から魚をとればいいのだ」
 こういいきかせて、くちばしをしばったまま、はなしてやった。
 おどろいたそのアホウドリは、島近くの海におりて、ばたばたさわいでいた。
 ところが、こんどは、われわれがおどろいた。というのは、これを見たなかまのアホウドリどもは、くちばしをしばられたアホウドリのまわりに、いっせいに舞いおりてきて、かわるがわる、くちばしをしばってある縄をつっついたり、かんだり、引っぱったり、ながい間、こんきょくほねをおっていたが、とうとう縄を取ってしまった。
 はじめから、海岸で、このようすを見ていたわれわれは、なんだかアホウドリに教えられたような気がした。
 水夫長は、水夫と漁夫にいった。
「えさをとりあって、けんかばかりしている鳥が、ああやって、ちえと力を出しあって、なかまをすくうのだ。おどろいたなあ。おいらたちも、鳥にまけずに、しっかりやろうぜ」
 私は、口にこそ出さなかったが、二人の病人は、どうしても、みんなの力とちえをあわせて、全快させないと、アホウドリに、はずかしいと思った。

   川口の雷声《かみなりごえ》

 宝島に二晩とまって、三日めの夜あけに、かめ、流木、塩、草ブドウを、伝馬船《てんません》いっぱいに積みこんで、宝島をあとに、本部島へ漕《こ》ぎだした。
 いつもならば、三人が交代して宝島に居残るのであるが、飲料水タンクの石油|缶《かん》が、どうしたことか、急に三つとももりだして、知らぬ間にすっかりからになってしまった。そして、水のはいっているのは、ただ一缶だけ。それも、半分いじょう使った残りなのだ。宝島からは、一てきの飲料水も出ないのだから、これでは、安心して三人の当番を残してはおけない。それで、一時、全員ひきあげることにして、八人が伝馬船に乗って、出発した。「まわりあわせ」というのには、まったくふしぎなことがある。この水タンクが、三つとも急にもり出したことは、十六人にとって、たいへんつごうのいいことになったのだ。
 九月三日の美しい日の出を、海上でむかえて、東へ
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