をしていた水夫長が、天幕《テント》に飛びこんできた。
「船長。たいへんな流木《りゅうぼく》です」
 浜に、たくさんの材木が、流れついたというのだ。
「みんなを起せ」
 私がいうと、水夫長は、大声でどなった。
「総員、流木をひろえ」
「それ」
 一同は、飛び起きて、浜べに走った。なるほど、いちめんの流木だ。大小の丸太、角材、板、空樽《あきだる》などが、夜のまに流れついていた。これは、われらの龍睡丸《りゅうすいまる》が、くだけて、ばらばらになって、乗りあげた暗礁《あんしょう》から、流されてきたのだ。みんな、かなしい、なつかしい気もちになって、小さな板きれまで、すっかりひろいあつめた。
 なかに、太い円材が、二本あった。龍睡丸の帆桁《ほげた》である。これはいいものが流れついたと、一同はよろこんだ。これと、三角|筏《いかだ》の一骨にした円材と、三本の長い円材を、すぐ砂山に運んで、砂山のうえに、見はりやぐらを立てる作業をはじめた。
 大きな円材など、重たい長いものを、船では、ふだん取りあつかっているが、それには大きな滑車や、太いながい索《つな》や、いろいろの道具を使って動かすのである。いまわれわれは、そんな道具を何ももっていない。しかし、運転士と水夫長とは、この方面にかけては、それこそ、日本一のうでまえがあるのだ。いろいろと工夫して、三日がかりで、りっぱな三本足のやぐらを、砂山の頂上に立てた。
 まず、砂の上に、三本の円材を立て、そのてっぺんを三本いっしょに、しっかりと、じょうぶな索でしばった。そして、その少し下に、横木をしばりつけ、この横木に、板と丸太を渡して、見はり番の立つところをつくった。のぼりおりの階段には、横木をしばりつけた。
 やぐらの高さ、四メートル半、砂山の高さと合わせて、海面上からは、十二メートル半である。この頂上に、昼夜、見はり番が立って、通る船は見のがすものかと、ぐるりと島を取りまく、半径七カイリ半の水平線を、一心こめて見はるのであった。

 さて、やぐらから、通りかかった船を見つけても、船の方では、無人島に、十六人が住まっているとは思うまい。そのまま行ってしまうにちがいない。そこで、船を見つけたら、信号をしなければならない。
 こういう場合に、
 ――ここに人がいる。助けてくれ――
 という信号は、煙をあげ、火を見せることで、この信号は、世界中、どこの
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