もりなんだ。』と、母が説明してくれた。
私は奇異な思をしながらなほよく上を眺めてゐると、雄鷄と茶色の雌鷄とは、煤だらけの梁の上にぴつたりと寄り添つて、胸元をふくらませながらもう寢仕度にかゝつてゐた。それまで下の方にぴよぴよ言つてゐた白い雌鷄は、是もやつとの事で高い梁の上に飛びつくと、茶色のが意地惡さうにひよいと首をつき出すのも待たず[#「待たず」は底本では「待たす」]、遙に雄鷄から離れたところに寂しく脚を折つて胸をつき出した。それを見ると、私はまた急に憎らしくなつて、高い窓を閉めるために入れてあつた竿を持ち出して、茶色の雌鷄を下からこつこつとつゝいてやつた。
三
ある日の事であつた。井戸の側の濕つた地に轉がつてゐた石を掘り返すと、大きな蚯蚓が出て來たので、私は鷄共をそこに呼び集めながら、棒片を持つて猶もやたらにそこらを掘り返した。「こゝこ、こゝこ」といふ嬉しさうな聲が、暫く私の足許に續いてゐた。その時、何の前提もなく、いきなり白い大きなものが、非常に急速な勢で轉がつて來たと思つた刹那、「けつけえつ!」といふ裂かれるやうな叫聲に、私はひつくり返るばかりに驚いて飛び
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