といふことを、決して信じはしなかつたけれど、その癖やつぱりなぜともなく、彼女が、見えなくなつた雄鷄を探ねて、どこともなくぽつぽつ歩き去つたその寂しい姿が眼に見えてならなかつた。
 さうして私は今でもなほ、彼女が賣られたものと現實的に考へるよりは、雄鷄を探ね探ねて、つい行方知れずになつたものと考へたいのである。



底本:「叢書「青踏」の女たち 第10巻「水野仙子集」」不二出版
   1986(昭和61)年4月25日復刻版第1刷発行
親本:「水野仙子集」叢文閣
   1920(大正9)年5月31日発行
入力:小林徹
校正:柳沢成雄
2000年2月22日公開
2006年4月19日修正
青空文庫作成ファイル:
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