。家の者達が注意して裏庭には出さないやうにしたので、一日内庭の固い土の上を仲好くあさつて歩き、時々勝手の上り框に載つて餌をくれと人にせがむやうな顏付をしてゐた。ある時はまた表の軒下に置いた荷車の下で、土を浴びながら羽蟲の取りこなどをしてゐた。
かうした日の連續なるある日、門口で友達と別れた私が、カバンの中の筆入をがらがらさせながら家の中にはひつて行くと、ふと後にひそやかな足音と「とううとうう」といふ聲がするので振り返つてみると、例の白い雌鷄が一人で寂しさうに私の後について來るのであつた。なんだかその姿がいつもに似ず寂しく思へたけれど、別に氣にもしないで、
『唯今。』と、大きくどなりながら上つて行つた。
家の中には誰もゐなかつた。私は例ものところにカバンを掛けて、またすぐに裏に出てみると、母と、それからいつも畑仕事に來る日雇人とが、二人とも手に棒片をもつて、
『ほんとに仕樣のない猫だ、この間で味しめたもんだから……』
『今度また來たらぶち殺してくれつから……したがまあ惜しいことをしやしたなあ、もう一足早いとよかつたんだが……』などゝ言ひ合つてゐるのだつた。
私はどきりとして、
『ど
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