ゑとく》して、建設《けんせつ》については一部《いちぶ》一厘《いちりん》だにも學《まな》ぶことが出來《でき》なかつたのです。悶えて悶えて悶えてゐる心を、うはべの賑《にぎや》かさに紛《まぎら》はしてゐる寂《さび》しさを、人々はただ嘲笑《てうせう》の眼をもつて見ました。Kさんのその時分《じぶん》の歌《うた》に、わがはしやぎし心は晩秋《ばんしう》の蔓草《つるくさ》の如《ごと》くから/\と空鳴《からな》りするといふやうな意《こゝろ》があつたやうに覺《おぼ》えてゐます。
多少《たせう》私達に好意《かうい》を持つてくれる人達《ひとたち》は、日《ひ》に/\氣遣《きづか》ひの眼をもつて私達に臨《のぞ》みました。それは私達の眞意《しんい》を汲《く》み取《と》り得《え》なかつたからなのでした。「君達《きみたち》の娯樂《ごらく》ともならばし給《たま》へと美《うつく》しき身《み》を魂《たましひ》を投《な》ぐ」といふあなたの歌をS誌上《しじやう》に見たその時の、なんともいふことの出來ないその心持《こゝろもち》を、私はまだまざ/\とおぼえてゐます。自ら不良少女と名乘《なの》ることによつて僅《わず》かに慰《なぐさ》んでゐる心の底《そこ》に、良心《りやうしん》と貞操《ていさう》とを大切にいたわつているのを、人々は(殊《こと》に男子《だんし》に於《おい》て)見ぬく[#「見ぬく」は底本では「見ねく」]ことが出來ませんでした。
私達はたゞ/\解放《かいはう》されるのをばかり望《のぞ》んだのではなかつた。何ものかを心にしつかとつかまなければならないのでした。さうしてつかまう/\とする要求《えうきう》が烈《はげ》しくなればなるほど強くなつて來るのは、それに對《たい》する失望《しつばう》の心でした。私達は暗《やみ》の中に手探《てさぐ》りで何かを探し廻《まは》つてゐました。何を探すのかも知《し》らずにたゞ探しました。今になつて思つてみれば、それは生《い》きようとする要求に外《ほか》なりませんでした。
女《をんな》は弱《よわ》いもの故《ゆゑ》にたやすく失望《しつばう》をし、そしてたやすく自棄《やけ》にもなります。やがて私達にもそれがやつて來ました。殆《ほとん》ど危《あやふ》かつたその時、私達は自ら救《すく》ふために、十|分《ぶん》にその力《ちから》に疑《うたが》ひを殘《のこ》しながらも、愛とその結婚に隱《かく》れ家《が》を求めようとしました。
その頃|雜誌《ざつし》「青鞜《せいたう》」は生《うま》れ、新《あたら》しい女といふことが大分《だいぶ》やかましくなつてまゐりました。けれど私達は初めからそれを白眼《はくがん》でみました。なぜならば、少しもそれらの運動《うんどう》や宣言《せんこく》[#ルビの「せんこく」はママ]に共鳴《きようめい》を感ずることが出來ませんでしたから。ひそかに自分達《じぶんたち》の考へはもう舊《ふる》いのだろうと肯《うなづ》きました。さうしてその舊さに滿足《まんぞく》を感じ、光榮《くわうえい》を感じました。吾々《われ/\》は覺醒《かくせい》せりと叫《さけ》ぶひまに、私達はなほ暗の中をわが生命《いのち》の渇《かわ》きのために、泉《いづみ》に近《ちか》い濕《しめ》りをさぐる愚《おろ》かさを繰《く》りかへすのでした。私達はとてもあの人達のやうな自信《じしん》と誇《ほこ》りを持つことが出來なかつた。決して現在《げんざい》の自らの心の状態を是認《ぜにん》することが出來なかつた。
さて私の結婚|後《ご》の生活《せいくわつ》は、渦《うづ》のやうにぐる/\と私どもを弄《もてあそ》ばうとしました、今猶|多少《たせう》の渦はこの身邊《しんぺん》を取り圍《かこ》みつゝあるけれども、貧《ひん》と心の惱みとに鍛《きた》へぬかれた今(まだ全《まつた》くはぬけ切らぬけれども)やうやくある落着《おちつ》きが私の心に芽《め》を出しかけました。その芽をはぐゝむものは、私の廣《ひろ》い深い愛でなければならないのです。私はまづ第一《だいいち》に夫《をつと》を愛しなければなりません。けれども情けないほど私の愛はまだ淺《あさ》いものです。私は自分の愛のいと小《ちひ》さく、淺く、狹《せま》いのを、恥《は》ぢ、恐《おそ》れ、嘆《なげ》きます。私の今の苦《くる》しみは、私ん[#「ん」はママ]自分に希《のぞ》んでゐる愛の足《た》りなさを、悲《かな》しむ心に外ならないのです。
また私の胸《むね》に和《やはら》ぎの芽を植《う》ゑそめたものは、一頻《ひとしき》り私の膓《はらわた》を噛《か》み刻《きざ》んでゐたところの苦惱《くなう》が生《う》んだ、ある犧牲的《ぎせいてき》な心でした。その心持《こころもち》は今、私をだん/\と宗教的《しうけうてき》な方面《はうめん》に導《みちび》かうとし、反動《はんどう》の
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