を考へてみなければならぬやうな氣持になつて來ました。私は一まづ筆をおいて、體を横にして、しばらく思に耽らうと思ひます。
(午後三時書き次ぐ)また少し胸が痛む……あの變な、何ともいへぬ不氣味なうづき、けれどもそれに心を假してゐると、また氣が滅入つて仕樣がないから、構はず先を書いて行きませう。病氣よ私はお前に感謝する、なぜならばお前は私の胸に巣をくつて、そのかはりには、脂肪と垢との健康から私の精神を洗つてくれたから。
早いものですね、私達が結婚してからもう七年になります。その七年の間、ざつといへばあなたも私も大變不幸でした。それは爭と、煩悶と、迷との年月でした。勿論私達は相愛さなかつたわけではないけれど、しかもそのために却へてくるしみを得ました。二人の結合を折々宿命的に考へることがあつても、これが必然の運命と思ひ切れぬところに、すべての錯誤と、焦慮と、苦惱とがありました。それを分類すれば、第一に二人の性格の相違、あなたは澄まうとする、私は泡を立てる。あなたは眠らうとする、私は笑はうとする。あなたが靜寂を欲すれば、私は歌ひ、話し、踊ることを喜ぶ。さうしてお互に己の欲する所に從つて、讓る事を
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