のやうになつて見えて來るやうな氣がしてならなかつたのですよ……』
しかし私は言ひ足りなさを覺えて自分の胸を抑へました。
『ごらんなさい、何のけがれもない純白な世界、それだのにあの空の青いことは!』
三
あなたは私の言はうとして言ひ現せない心を汲んで、優しい目で私を御覽になりながら、しづかに私の手をとつて接吻なさいました。
『有り難う!』
かう仰しやつたあなたの目にも涙がありましたわ。
その時二三羽の雀が、ちゝちゝと鳴きながら、枝垂櫻の枝の間を飛び歩いて、ほつそりと枝なりにかゝつてゐた雪を、はらはらとこぼしてをりました。それから私は急に氣がゆるんだやうな、がつかりとした氣持になつて、また床の上に倒れたのでした。
ねえ、覺えてらつしやるでせう、その時の事を。今朝の私の心持も、やつぱりそれと同じやうな心の感激だつたのでせう。
それからしばらく經つと、私はあなたに手紙を書きたい氣でいつぱいになつて、たゞ一途にその事ばかり考へながら、同じ道を引き返して來ました。そして矢庭に筆を執りました……けれども、こゝまで書いて來た上で、一體私は何をあなたに言ひ送らうとするのか
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