かにあなたの目にその庭の雪を指したことを。さうして私は床の上に起きかへつていひました。
『雪は明方に止みましたの、私がふと眼を覺した時には、もうすつかりしづかになつてゐて、どんなに耳を欹てゝも、天地の物音は何一つとして聞くことが出來ないのですよ。私は考へたの、雪は止んだ、天地は死んだのかしら、それとも眠つてるのか知ら、いやいや死んでもゐない、眠つてもゐない……だけども、こんなに息をつかないでも生きてゐられるかしらつてね。そのうちにまた眠つてしまひ[#「しまひ」は底本では「しひ」]ましたの、そしていつもよりうんと朝寢をしつちまつたのよ。目が覺めたら、あなたが今日おいでになるつていふ手紙が枕許に置いてありましたのよ。私ね、それを手に取りながら、なぜかふつと昨夜……明けがただつたけれど、目を覺した時のことを思ひ出しましたの、そしてお蔦に障子を開けさせましたらね、ほら、こんなに深くまつ白に積つてたんですよ。綺麗でせう、まだだあれも足跡一つ、指の跡一つだつてつけやしないわ、私、今朝ぢいつとこれを眺めてましたらね、なんだかあなたと私との家が、誰にも知られないかくれ家が、この雪の中に、ちようど蜃氣樓
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