だあなたがたの顏を見上げました。
 彼はその夜を私の病室で明して、また來るといふことをかりそめに言ひながら、再び遠く歸つて行くのでした。あなたもそれを程近い停車場まで送るといつて、連れだつて出ていらつしやいました。
 あなたがたがやがて病室の窓から見える橋のあたりまで來たと思ふ頃、私はそつと起き上つて窓の前に倚りました。黄ばみそめた銀杏の樹陰に隱れ見えしながら、豆のやうに並んで歩いて行く二人の後姿は、私がかうしてこゝに寂しく見送つてゐる事を知らずに、いつまでもいつまでも、それは永久に振り返る事を許されぬ影のやうに、だんだんと私の目路から去つて行きました。
『恐らくは、あの二人が並んで歩くのもこれが最後であらう!』
 私は何となくさう感じられて心に呟きました。

        十九

 暖爐によつて温められた部屋はあたゝかだつたけれど、障子を開けた時に雪は音もなく外に降つてゐました。それは十二月のなかば、その日東京から着いたあなたの顏色は沈んでゐました。さうして私を見る眼には、愛と憎と僅なよそよそしさと、また自分自身の寂しさといつたやうなものが潜んでゐました。
 私はあなたが襟卷をとり
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