い。けれどもこれは危機ではなからうか? 少くも私達の危機の一歩ではなからうか? しかしこの心持は決して今に初めて味ふ心持ではない、そして私達は常に自分自身が穩であられた。……けれども、今私の心は、何かの來るべきものを豫知して、ゆかしき期待の前に恐れ戰いてゐる。一體何が私達の上に來るのであらう? 何を私の心は窺知し、感じてゐるのであらう?……私は考へたけれどもわからなかつた、たゞその何かを待つ如くに、彼が來るのを待つてゐる心持を知つたより外には……私は死ぬのではなからうか? そのためにかくすべてに滿足し、また執着しなければならないのかも知れぬ。もしそれが永遠なるものゝ導であるならば、私は少しもそれを悲しまぬであらう。たゞどうか、私共の上に落ち來るものが、一時の運命の惡戯ではあつてくれないやうに! けれども、私の心は刻々に、正しくある危きものを感じた、いかにしてもそれは、曾てない事であつた。
「神樣! 私は今日あの人を自分でここに呼びました。けれども今はなぜかそれが惡かつたやうな氣がしてゐます。私はどうしようと願ふのでもありません、たゞどうか私達をして今までの如くあらしめ下さい、何事もなく
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