、默祷してるやうに默つて動かぬあなたの横顏を描きにかかります。
『あら、動いちや厭よ。※[#判読不可、184−2] まあ、髮の毛が大變のびましたわねえ。』
 さうして今更にあなたの頬のやつれに心が痛む。
『どれお見せ。』と、あなたは手をのばす。
『だめ、ちつとも似ないわ。』
『一寸うまいぢやないか、だが隨分陰欝な顏をしてると見えるねえ、僕は輪廓だけでもそれが見えるぢやないか。』
 何事もすべてはそこに歸して行く。
『髮がのびたから、餘計やつれて見えるのですよ。今度あなた、暖な日にお刈になるといゝわ、床屋を呼んで來ませうか?』
 私はあなたの長く延びた髮の毛に手を突き込んで、指の先でそれをいぢくりながら、急に胸がせくりあげて來るのを覺えて唇を噛むのでした。
『なぜ泣くの?』
たうとう一つ垂つた涙を見つけて、あなたは咎めるやうに私を御覽になる。
『え、何が悲しい?』
 さう言はれても、私は併し答へるすべを知らないのでした。なぜ出る涙であるか、それがはつきり自分にもわかつてゐたならば、私はもつとどうにかしやうがあらうものを、私はたゞ涙が出る故に悲しく、悲しめば悲しむ程、劬られゝば劬られる程ま
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