。
『あの人はそんな人ぢやないわ。(といふのは、そんなに狹量ではないといふ意味で、その事は私の理想だつたのです。)たゞ人附合がほんとに下手なんですね、自分でもこれぢやいけないと氣を揉むんだけども、何か話したり笑つたりしようと思ふんだけれど、それがさうできないのがあの人の性分なんですよ。』
この一所懸命な説明に滿足できなくて、私はなほ言葉を次ぐ。
『そらほんとに惡氣なんてちつともない人なんですからね……』
けれども私はやつぱり言ひ足りなさを覺えて考へ込みます。私はあなたをどうにかしてあの人によく思はれたい、あの人の前にあなたを完全な者にしたい、けれどもそれと同時にまた、この私のどこか寂しいもの足りなさを知つて貰ひたいといふやうな、矛盾した二つの感情の爲に、結局私は口を緘んでしまふのでした。
『お前はほんとに人さへ來てると機嫌がいゝけれど、僕とたつた二人きりの時は、なんだか寂しいやうな、つまらないやうな顏ばかりしてゐるねえ――まるで別人のやうに。』と、いくらか責めるやうに私を御覽になつたあなたの目を私はふと思ひ出します。
異なる寂しさともの足りなさ……否、同じたぐひの寂しさともの足り
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