れどもこの事は、はじめあなたをあまり喜ばせないやうでした。それはあの人を嫌ふといふよりも、あなたはその賑な談笑に、私同樣な愉快を感ずる事ができなかつたからで、あなたの無意識な要求は、自分が默つてゐたい時にはやつぱり私をもおし默らせて置きたいのでした。それにも拘らず、私はあなたが默つてしまへばしまふ程、その場を糊塗する心から、或はあなたのさうした思をAの前に隱さうとする心から、(私にはなぜかあなたのさういふ氣質をあの人に知られるのがしいやうな[#「知られるのがしいやうな」はママ]氣がしたのです。)微細な心づかひをあなたの上に取られつゝも、ますます賑にはしやぎ出すのでした、さうして鋭敏なAの神經がそれを感じ、いたむやうに私を見るのを知る時、私は恥しさと、寂しさと、腹だたしさのまぜかへしたやうな心を覺え、自分にももはや苦痛であるところの快活さを裝はうとするのでした。
 けれどもAは辭して行く。さうしてあなたは、やつと私が自分のものになつたやうなやすらかさを感じ、しづかに優しく私を御覽になる。けれども私はやつぱり寂しかつたのです、私は疲れ、さうして僅に悲しみ、あなたを劬り、慕ひ、またわつかほど
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