#「展覽會に」は底本では「展覺會に」]彼が出品してる事を、ある新聞の消息で知つて、急に思ひ出して私が手紙を書いたからでした。
 私はあの人をあなたに紹介するのに何の憚も持ちませんでした。彼は見違へる程元氣になつて、あなたがいつも初對面の人に對して殊にさうであるとほり不機嫌に(あなたは自分では決して機嫌を惡くしてるつもりではないと仰しやるけれど、傍からはさう見えるのです。)默りこくつてゐるに反し、よく話したり笑つたりしました。私もまた引き入れられて、笑つたりおしやべりしたりする事によつて、久しく欝結してたものが去つたやうな、ある快さを覺えたのでした。
 それから私はだんだんAの訪問をうけるのを喜ぶやうになつて來ました。格別勤めるといふ事もなく、またこれぞといつて學校にも通つてなかつた彼は、いつも思ひ出したやうにぶらりとやつて來るのが常でした。私はそれをよくあなたがおかへりになるまで引き留めて、お夕飯を一所に頂かうと言ひ張りました。私は、自分に面白い事は、あなたにもまた面白くなければ[#「なければ」は底本では「なけれは」]ならぬ筈と、不用意にいきなり思ひ込んでしまふのが癖でしたから。
 け
前へ 次へ
全51ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング