かつたやうに、或は企てゝも出來なかつたやうに、私も亦あなたの心に添ふやうに、自分を馴さうとはしませんでしたし、また不可能な事に思つてゐました。私は相變らず快活でした、併し、それはもはや内に向いてゞはなく、外に向いてゞした。私は向日葵のやうに無意識に無意識に、自分の心を惹くものゝ方へとその首をむけてゐるのでした。
Aはその時分最も近く私達の側を歩いてゐました。あの人はあなたも御承知の通り、私の從姉に當る女の再縁した先の先妻の一人子でした。Aと私との間にさうした縁戚關係の生じたのは、私の十六の時で、たしか二つ違ですから、あの人が十八の時でした。併し私達はそれから四五年の間、一度も會つた事もなければ、そんな人がをるといふ事すらも忘れて過してゐました、Aの一家はその時分仙臺の方に暮してゐたのです。
あなたと私とが相逢ふやうになつてから、一年ばかり後れてのある夏、私は突然一人の知らぬ青年の訪問をうけました。それがAだつたのです、ちようど病後だとはいつてましたが、青白い顏をして、鋭い眼の上の濃い眉毛が何となく陰鬱に見えました。繪をやるために上京したといつてましたが、あとで從姉からの手紙を見ると
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