の、サアシヤがこんな女だから無理がないんだもの!」
自ら自分に痛手を負はせることは、自ら見放したものに取つて一つの痛い快さである。私はすでにその場に置かれたかのやうに打萎れて、袂の先などをいぢつくつて[#「いぢつくつて」はママ]居る。
「実はね、可愛いのが一人あるんだよ。」と、わざと声を低めて、私の顔近く寄せていふあの人の頬を、不思議な憎しみに駆られて、私は思はずぴしやりと平手で打つ。そしてはつとして慄へるやうな心を、保護するやうにいつか涙が私の瞼《まぶた》に出て居る。瞬くとはら/\と涙がこぼれる。思はぬ助けを得たやうに、私はその涙に頼つて、悲しさの甘い快さの中に溶け入らうと努める。
「馬鹿だね、自分から言ひ出したこつちやないか。嫉妬の快感を味はつてやがる!」
何が今悲しいといふ訳もなく、悲しかつた記憶や、悲しからうと思ふ空想の中に、私はあとから/\と涙を見出して行く。
「嘘さあ、そんなことは嘘さあ。」と、慰めるやうな囁《ささや》きがやがて聞える頃、私はあの人の膝につっぷして、かさ/\に乾いた胸を潤すやうな、涙の快さに浸つて居る。
「そんなにヒステリカルになつちや仕様がないぢやない
前へ
次へ
全20ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング